輝ける職場があることが、シニア自身の生きがいになる
社会福祉法人栄光会 理事長
中村 剛(ナカムラ カタシ)さん
従業員 | 64名 |
---|---|
60歳以上の就労者 | 10名 |
有償ボランティア | 13人(70歳〜90歳) |
※内容は2020年10月時点のものです。
目次
肝属郡南大隅町で「根占保育園」「つじみ保育園」「茶のん家(ちゃのんけ)」「いっでんだいでん来やん家(きやんか)」「陶芸工房 陶夢(とうむ)」「ばぁばカフェ」を運営しているのが、社会福祉法人栄光会だ。理事長の中村剛(なかむらかたし)さんは75歳。社会情勢や地域に暮らす人々が何を求めているか、どうすればより暮らしやすくなるかを考え、シニアを積極的に雇用している。シニアが働く意味について、中村さんに話を聞いた。
力が発揮できる仕事があることは、シニアにとっても喜び
南大隅町に住んでいる人なら、「茶のん家」「来やん家」を知っているのではないだろうか。「家族が利用している」「行ったことがある」「通っている」という人も多いかもしれない。 「茶のん家」は地域の高齢者が集う交流施設で、ミニデイサービスを始め、コーラス教室や陶芸教室などを開催しているほか、300円の「茶のん家定食」という食事も提供している。「来やん家」は幅広い世代が利用する地域交流の場。ばあばカフェや子ども食堂、ピザの日、書道教室などさまざまな取り組みをしている。「茶のん家」が平成24年に、「来やん家」が平成28年にオープンし、令和2年3月に両施設を合わせた利用者が5万人を突破した。南大隅町の人口は約7,000人ということを考えると、町の人々から相当愛され親しまれていることが分かる数字だ。
社会福祉法人栄光会理事長の中村剛(なかむらかたし)さんは75歳。創業したのは父親の数哉氏で、保育園は65年の歴史がある。中村さん自身は教員として小学校に勤務したあと、15年前、現在の仕事に就いた。中村さんが運営する社会福祉法人栄光会には、令和2年時点で64名の従業員がいるが、そのうち10名が60歳以上のシニアだ。看護師や保育士などの資格を生かして働く人もいれば、資格を必要としない仕事に打ち込む人もいる。いずれにしても、「自分の力を発揮できる仕事があることこそ、本人にとって喜びだと思う」と中村さんは語る。
社会福祉法人栄光会では、積極的にシニアを雇用している。その理由を尋ねると、中村さんは「地域に恩返しの高齢者支援」だと答えた。九州最南端に位置する南大隅町は高齢化率がとても高く、若い人材が不足している。そんな中、シニアの力は欠かせない。そのシニアが自然なかたちで活躍できる場のひとつが、社会福祉法人栄光会の基軸となる保育園だ。中村さんは、保育園には「もう一つの家庭」という側面もあると話す。
シニアの力について語る中村剛(かたし)理事長
「家庭にはお母さん、お父さんだけではなく、おじいちゃん、おばあちゃんもいるわけですから、そういうかたちでもシニアの力が必要です」
保育園でシニアが子どもたちの世話をするのは、祖父母が孫の面倒を見ることと同意でもある。保育園にいろいろな世代のスタッフがいるのは、とても自然なことなのだ。
刺激し合う若者とシニア。世代が異なるスタッフがいることで、お互いに支え合える
高齢化に伴う労働力不足が深刻な問題になっているのは南大隅町だけではない。また、さまざまな理由から、年齢を重ねても働く高齢者は珍しくない。「高齢者になったのにまだ働くなんて」と見る向きもあるが、働くことで賃金が得られるのはもちろん、それ以上に高齢者自身にとっての大きなメリットがあると中村さんは考えている。
「年齢を重ねるとどうしても、人からやってもらいたいという感覚になります。しかし歳はとっても自分ができることを周りの人にやってあげる、これならできるという場面で活躍できるのは素晴らしいことです。誰かにやってあげる、活躍できるというのは、本人の生きがいになります。それが生きる支えとなって励みになっていけば、さらに豊かな人生につながっていくのではないでしょうか。それだけでなく、周りにいる若い人も先輩の動きや考え方を参考にして、人生を広げていけます。そういう相乗効果もあるはずです」
実際に中村さんも、自らの経験を生かして仕事をするシニアの姿に、若いスタッフが影響を受けている姿を目にしている。また、シニアが自分の経験を生かせることを喜んでいるのも感じている。若いエネルギーや意欲をシニアが受け取り、お互いに刺激しあっていい方向に向かっているのではないかと中村さんは感じている。
さらに、シニアのスタッフが増えることで思いがけないメリットもあった。スタッフに余裕があるため、子育てをしながら働く若いスタッフが、子どもの学校行事の際に休みを取りやすくなったのだ。シニアを雇用した結果、若い世代にとっても働きやすい職場に変化している。「現役で子育てをしている人たちに、子育てが終わったシニアが協力する。必要なときにお願いできる強みがある。これこそ、大きな家族だと思っています」
指導や有償ボランディアで「関わりやすい」土壌を作り、シニアを巻き込んでいく
働きたいと思いながらも、なかなか一歩を踏み出せないシニアも多い。そういう人のハードルを下げるために、中村さんは「こちらから仕掛ける」作戦を取っている。
「何かイベントをするときに、有償のボランティアや指導者として関わってもらうようにお願いするのです。協力を仰ぐかたちでお手伝いを毎月お願いしていく。そうやって巻き込んでいく。待っていても難しいですから」
無償のボランティアでは人を頼みにくいが、有償にするとそうでもない。それに、参加した高齢者にお小遣いというプラスαの喜びも提供できると中村さん。そうして地域の集まりに参加すれば、顔なじみも増え、「定期的に皆で集まって何かをする」習慣もできる。そこから紹介で仕事が始められる可能性も大きい。
もちろん、いいことばかりではなく問題もある。特に高齢者になると視野が狭くなりがちで、人間関係も限定され、広がりを作りにくい。難しい場面もあるが、「ともに生きる」意識を持って仕事をすることで打開できればと中村さんは話す。「私たちは周りの人に生かされています。周りの人たちとともに生きることが大事です。そのためには、ある程度自分を抑え、相手を受け入れるかたちでやっていけたらいい」
人生前向きにプラス思考で、と中村さん。鹿児島県内で高齢化率が最も高い南大隅町だが、「根占保育園」「つじみ保育園」、「茶のん家」「来やん家」に集まる人を見ていると、シニアだからこそ輝ける場所があることを実感できる。各施設で働くシニアの姿には、希望が感じられた。
社会福祉法人栄光会
〒893-2501 鹿児島県肝属郡南大隅町根占川北1897-2
TEL:0994-24-2131