大好きな料理を食べてもらえて、たくさんの人と関われる仕事が“生きがい”
社会福祉法人栄光会 有償ボランティア
中島 道子(ナカシマ ミチコ)さん
年齢 | 70歳 |
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勤務内容 | 食事配膳 |
勤務時間 | 5時間/日、2~3日/週 |
※ご年齢は2020年10月時点のものです。
「おいしかったと喜んでもらえるのが何よりうれしい」とほほ笑むのは、「来やん家(きやんか)」にある「ばぁばカフェ」で調理を担当する中島道子(なかしまみちこ)さん(70歳)だ。料理が好きで、これまでも宿泊施設に併設されたレストランで勤務した経験がある。優しく味付けされた中島さんの料理は、どこか懐かしい。ほっこりした気持ちになる家庭の味だ。料理が好きで、常に料理のことを考えているという中島さんに話を聞いた。
ちょっとずつをたくさん。おいしい料理を楽しんでほしい
「来やん家」は鹿児島県肝属郡南大隅町にある、地域の人々の地域交流の場だ。古民家を改築した施設で平成28年にオープン。ばぁばカフェのほかピザの日、子ども食堂や書道教室、将棋、町歩きなど、地域に暮らす幅広い年代の人たちが集う。「来やん(きやん)」とは、鹿児島弁で「いらっしゃい、来なさい」という意味で、その言葉通り訪れた人を誰でも歓迎してくれる居心地の良い空間だ。「来やん家」にある「ばぁばカフェ」で働くのは、シニア世代のばぁばたち。ばぁばの作る季節に合わせた手料理が食べられる。令和2年3月に来館者3万人を超えた「来やん家」も「ばぁばカフェ」も、地元の人たちには馴染み深く親しみのある場所となっている。
中島道子さんは70歳。知人の紹介で、3年ほど前からばぁばカフェで働き始めた。勤務日はだいたい週に3日。9時から14時までの5時間だ。メニューを決めるのは中島さん。同じメニューが続かないよう工夫しているが、決めたメニューが絶対ではない。前日の買い物の際、店にあるものを見てメニューを変えることもよくあるという。臨機応変な対応は、いつでもおいしい食事を食べてもらいたいという気持ちからだ。
「来やん家」は、南大隅町で保育園を基軸とした事業を行う社会福祉法人栄光会が運営している。そのため、保育園の給食用の品が2~3品「ばぁばカフェ」にも届けられ、さらに「ばぁばカフェ」で中島さんが2~3品作ることで、より豊かで見映えがするメニューが完成する。
- 障子に書かれたメッセージ
- 手書きのメニュー
「たくさん盛るより、ちょっとずつのほうがおいしいじゃないですか」 と中島さん。確かに、品数が多いことで見た目にもインパクトがあり、「食べる楽しみ」が増す。
ばぁばカフェでは毎月第二土曜日に、子ども食堂も開催している。予約制で、子どもたちが大好きなカレーが提供されることが多い。子どもは100円。親子で来る人も多いという。地域の人たちと一緒にカレーを食べる時間は、家庭では味わえない楽しさや学びもあるはずだ。「ばぁばカフェ」は、おいしい料理が食べられるだけでなく、地域のあらゆる年代の人々を繋げる場でもある。
人と関わる時間も、料理を喜んでもらえるのも「幸せ」
「料理が好き」という中島さんは、子どもの頃から忙しい母を手伝い、薪でご飯を炊いていた。「ばぁばカフェ」の前は、南大隅町の天然温泉宿泊施設「ネッピー館」に併設されたレストランの厨房で勤務した経験があり、料理長からさまざまな野菜の切り方を教えてもらったという。その経験は、「ばぁばカフェ」でも生かされている。 料理を作ることも喜びだが、なんといっても一番うれしいのは「人と人のつながり」が感じられる瞬間だ。
「人と人とのふれあいを大切にしようという気持ちで働いています。ここで久しぶりに友達と会って再会を喜びあう瞬間も幸せですし、皆さんとお話をしたり、お茶を飲んだりするのも本当に楽しいです。もちろん、料理を喜んでもらえるのもありがたいですよ。お帰りになるときに『ありがとう』『おいしかった』と言ってもらえると、『がんばらないと』という気持ちがわいてきます」
そんな励みもあってか、中島さんは研究熱心だ。休日は鹿屋まで足を伸ばして飲食店を訪れ、「ばぁばカフェ」で出すメニューの参考にしているという。友人がおいしい店を探して誘ってくれることもあるし、新しい店が開店したと聞けば、食べに行ってみる。 「外食は勉強になることばかり。とろみをつけた煮物を食べたときも、とろみがあると温かさが長持ちするから、冬でもすぐ冷めないことに気付きました。参考になります」
そんな中島さんがいつも心がけているのは、笑顔でいること。ニコニコしていて話しかけやすい空気を醸し出しているからか、客から料理の作り方を聞かれることも多い。知っていることは何でも教えてあげたいと思っているが、中島さんの料理は多くが「適当」。そんなところも、いい意味で家庭料理らしい。
家にいると下向きになってしまう。シニアは外に出て人と話すことが大事
好きな料理を仕事にして生き生きと暮らす中島さんのようなシニアがいる一方、家にこもりがちなシニアも多い。中島さん自身も働きに出ることについて、家族から「家にいても誰も来ないこともあるでしょう。ぼけ防止にもいいんじゃない」と背中を押されたそうだ。シニアが働くことについて、中島さんはこう話す。
「働きに出れば人との接触があり、話ができて、面白かったり楽しかったりします。家にばかりいると下向きなってしまいがちですよね。ですから、できるだけ外に出た方が良いです。友達にも『外に出なさい』と言っています。1人でテレビばかり見ているのは寂しいです。健康体操に行ったり、食事にいったり、外に出て人と話すことが大事です」
中島さんにとって、作った料理を喜んでもらえ人々と繋がりが生まれる仕事は、大切な生きがい。元気な限りは仕事を続けるつもりだ。「足が痛いけれど、休憩しながらでもできますから」と前向きに笑う中島さんからは、キラキラとした輝きが感じられた。
ばぁばカフェ(「来やん家」内)
〒893-2501 鹿児島県肝属郡南大隅町根占川北1897-2
TEL:0994-24-2131