こども園の仕事を通じて気づいた「高齢者が働くこと」の意
南九州市シルバー人材センター会員
御園 純子(ミソノ ジュンコ)さん
年齢 | 69歳 |
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派遣先 | こども園ほしのこ |
勤務内容 | 保育全般 |
勤務日数 | 8日/月(1日4時間) |
※ご年齢は2020年9月時点のものです。
「自分の子育ての時はいつもカリカリしていたのに、保育の仕事で接する子どもたちはかわいくて仕方がない、全てが新鮮」
そう語る御園純子さんは69歳。南九州市にある「こども園ほしのこ」で保育業務全般に関わっている。保育の仕事は初めて。けれど「私には合っているし、若い人をサポートできる」と話す御園さんに、シルバー世代が働くことの意味について話を聞いた。
こども園で接する子どもたちがかわいくて仕方がない
御園さんは30年間、個人事業主として建築業界に携わってきた経歴を持つ。夫と共に、男性ばかりの職場で働いてきたが、成長した御園さんの息子が会社を引き継ぎ、夫妻は引退した。「うちのお父さんは家で野菜作りをしているけれど、私はどちらかというと外のほうが好きなタイプだから」と、外に働きに出ることを検討し始める。そんなとき、保育の講習が開催されるというチラシを目にし、興味を持ってセミナーに参加した。そのセミナーでシルバー人材センターの職員から声をかけられ、センターからの派遣で「こども園ほしのこ」に勤務することになった。
御園さんは月に8日、1日4時間の勤務だ。11時半に出勤し、お昼寝の準備をしたあと、子どもたちが食べたお昼ご飯の後片付けをし、トイレ掃除をする。それが終わると子どもたちが起きる時間になるので、トイレに連れていく。3時のおやつを一緒に食べたら片づけをして、きれいに掃除すれば仕事終了だ。決まった休憩時間はないが、自分のタイミングで少し休み、子どもたちとおしゃべりをして相手をしていると業務時間が過ぎていく。勤務時間は4時間と短いので疲れはなく、重い責任もない。園の先生たちとの関係も良好で、精神的にも楽だと語る。
まったく違う業界から保育の仕事をすることになった御園さんだが、コミュニケーションが重視される建設業界で培った社交性は生かせるし、何より「この仕事は自分に合っている」と感じている。御園さんには3人の子どもがいるが、自分の子育てでは、いつもカリカリしていた。夫からもたしなめられることが多かったという。
「共働きだったし、余裕がなかったのかな。子どもに責任や期待もありました。けれど仕事として接する子どもたちは、全部かわいいですよね。怒っているのも泣いているのもかわいい。歳のせいかな。自分でも『何で他人の家の子がこんなにかわいいのだろう』と思います」
そう感じながら取り組む仕事は全部が楽しい。こども園の仕事は体力勝負だが、毎日フルタイムではなく、週に2回、4時間だけというのも、年齢的にちょうどいいそうだ。
とは言っても、体力作りにも余念がない。自分自身の健康のため、毎日40分のウォーキングが日課で、友達を誘い田んぼの道を歩く。仕事がない日は夫の家庭菜園を手伝い、メリハリのある充実した日々を過ごしている。
これからは若い人たちのサポートが必要、まずは考えずにやってみて
そんな御園さんだが、こども園で働き始めて初めて気づいたことがある。子どもを持つ若い夫婦の多くが共働きだ。お父さん、お母さんたちが集中して仕事ができるように、安心して任せられる園はとても重要だ。
「若い人たちが、園に預けた子どものことを気にしないで、一生懸命自分の仕事に励むことができるというのは、大事なことだと思います。若い人たちは、日本を支えていく人たちだから、私たちが少しでも手助けをしないとだめ。働いているうちに、そういうことに気づかされました。団塊の世代が80、90歳になって、若い人たちがそれを支えていけると思いますか。10年先、20年先を考えると、高齢者も甘ったれた考えじゃいけないとつくづく思う」御園さんは、そうはっきりと言い切る。
御園さんの友人にも「働きたい」というシルバー世代が多いという。こども園ではシルバー世代の働き手を求めていて、御園さんも紹介をしようと何度か試みた。しかし「子どもたちと付き合えるかな」と悩み、踏ん切りがつかない人が多い。
御園さん自身は、未経験だったがポンと現場に飛び込んでいった。悩んで踏み込めない人との違いを、御園さんはこう分析する。
「私は、何でもすぐ動くほう。やってみてそこで考える、やりながら考えます。踏み込めない人は、やる前にいろいろ考えすぎてしまうようですね」
考える前に始めた保育の仕事だが、70代で働いている人はたくさんいるし、仕事をすることはリフレッシュにもなる。何より、日本の未来を考えた時、若い人を放っておけない。
「少しは余力があるうちに若い人のサポートをしたい。助けてくれる人がいれば、若い人もだいぶ助かりますよね。手助けをしないと、若い人がかわいそう。子育ても私たちの世代とは違うので、彼らは自分の仕事をしながら必死です。お手伝いをしてあげなければだめです。大げさかもしれないけれど、こぢんまりとしたこども園だって社会。そこでちょっとでも役に立てばいいなと思います」
小さな場所であっても、働くことで自分も社会に参加し協力しているという実感が持てる。そこに大きな意義がある。
「自分で動かないと何事も変わらないです」
そう語る御園さんは、間違いなく団塊の世代と若い世代をつなぐ架け橋になっている。
社会福祉法人 知覧中央福祉会 こども園ほしのこ
