元気な理由は、多趣味で遊び好きだから!?
80代現役の人気理髪師
東京館理容所
原田 貞明(はらだ ていめい)さん
年齢 | 86歳 |
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所属 | 「東京館理容所」オーナー/理容師 |
※ご年齢は2020年9月時点のものです。
鹿児島県肝属郡肝付町にある「東京館理容所」は、昭和34年に開店した老舗の理容店だ。オーナーの原田貞明(はらだていめい)さんは86歳。現在もはさみとくしを持って店頭に立つベテラン理容師だ。「楽しい人生です」と朗らかに語る原田さんに話をうかがった。
大繁盛・大人気の理容店「東京館理容所」
「1日に127人のお客さんが来たことがある」と元気に話すのは、原田貞明(はらだていめい)さん。現在86歳だが、今もなお店でお客さんの髪を整える現役理容師だ。
営業日は月に約25日、勤務時間は1日10時間にもなる。数字を見るとかなりハードで高齢者には難しいように感じるが、原田さんの姿はまるで80代には見えず、話す声も力強い。
原田さんは16歳から鹿児島で理容師になるための修行を始めた。しかし両親は当初、原田さんが理容師になることを反対していたという。
「親は、私が公務員になるほうがいいだろうと言って(笑)。でも私は理容師になりたくて、好きでこの道に入ったんですよ」
中学生の頃からバリカンを手にしていたという原田さん。修行を初めて3年で理容師の免許を取ると、そのまま東京の大学に進学し、理容師の講師を目指し勉強を始めた。先生をしながら世界を渡り歩こうと夢を見て、実際、一時期は講師をしつつ各地を旅したという。
講師を辞めて自分の店を持ったきっかけを尋ねると、
「講師をしていくら稼いでも使ってしまってお金が残らないので、昭和34年に開業しました」と茶目っ気たっぷりに答えてくれた。
そんな原田さんの店はいつも大繁盛。弟子もたくさんいたそうで、毎日30人ほどのお客が来店していたという。今でも1日に平均5~6人の客を接客し、散髪している。
誰にでも平等に接するのがポリシー
昭和34年から約60年。これだけ長い期間営業が続けられているのは、原田さんが元気で健康なことはもちろん、確かな腕があり、原田さん自身も店も愛されているからだ。
一体どのように接客をしているのかと尋ねると、原田さんは東京で学んだ「接客法」について教えてくれた。
「家はどこですかとか、何をやっていらっしゃいますかということは絶対に言いません。どんなふうにされますかと、髪型のことを聞きます。ですから、お客さんでも名前を知らない人が多いです」
東京時代、お客様に「どこからいらっしゃったんですか」と尋ねたとき、「俺は床屋に来たんだ」と返答が返ってきたことがあったという。それから客に個人的な質問はせず、客の好みの髪型をひたすら探る接客に変えた。原田さんは髪型を「頭の設計」と呼んでいる。
また、「どんな人にも平等に接する」ことも原田さんのポリシーだ。
「上も下もありません。どんな人でも、どんな職業の人でも同じです。皆仲良く。上にぺこぺこする人はだめですよ、下にぺこぺこしないと」
原田さんの店に建設業界で働く人が仕事着のまま訪れたことがあるという。「汚れたままでいいですか」と服の汚れを気にするその人を、原田さんは「いいよ、なんてことない」と店に迎え入れた。雨で靴に泥がついていても同じだ。「何も心配はない、汚れていてもいいんです」ときっぱりと言い切る原田さん。そんな人柄は昔から変わらず、多くの人に慕われている。原田さんが鹿児島で開業したあとも、東京に住む友人や知人から何度も「東京に戻ってこい、店を用意するから東京で開業しないか」と誘われたという。けれど、大繁盛の鹿児島の店を閉めることはできず、そのまま鹿児島で結婚をし、現在に至る。
多趣味とフットワークの軽さが、若さと元気の秘訣
86歳になっても精力的に仕事を続ける原田さん。健康でいるために何か工夫をしていることはあるのかと質問すると、驚く答えが返ってきた。
「朝晩は運動をやりっぱなしです。ウォーキング、筋トレ。仕事が終わったらゴルフの素振り。酒は飲まないので、テレビを見ながら運動をしています。あとは竹を踏んでいます」
ゴルフが好きで、仲間と一緒に週に1回はコースに行く。仕事を通じて知り合ったゴルフ仲間の他に、ゴルフ場で仲良くなった人もいるという。
長年通うゴルフ場で、原田さんは支配人とも友達になっていたため融通がきいた。予約をしなかったために入れず帰ろうとする人を見つけると「おいでよ」と声をかけて中に入れてあげたことが何度もある。そんな原田さんの顔や名前を憶えていた人が、思いがけない場面で助けてくれたこともあるそうだ。
趣味はゴルフだけにとどまらない。菊を育てたり、骨董品を集めたりと多岐に渡る。骨董集めに熱中した時期は、骨董のために1週間ほど家を空けることもあったという。今はまっているのはニシキゴイ。ニシキゴイのために、自宅に池を作ってしまった。
自分で自分を「遊び人」「道楽者」と語る原田さんだが、店に出れば、原田さんの腕を頼ってやってくる客がいる。中には「原田さんと話したいから」と遠方からわざわざやってくる人も少なくない。
原田さんの「遊び人っぷり」と「多趣味」は話題の引き出しをどんどん増やし、客が望む限り会話が途切れることはない。冗談を交えつつ陽気に話し続ける原田さんと一緒にいると、「東京館理容所」の人気の秘密も、原田さんを遊びに誘いたくなる人の気持ちも、手に取るように分かる。仕事に遊びにと、人生をフルサイズで楽しんでいる原田さんは、多くの人にとって魅力的かつ理想的な「80代」の姿なのではないだろうか。
東京館理容所
〒893-1207 鹿児島県肝属郡肝付町新富22-4
TEL:0994-65-2354