ねぷた祭実行委員の活動がライフワーク
街と人々の記憶を繋ぐ祭りを支え続ける
南九州市シルバー人材センター会員
中木原 重見(ナカキハラ シゲミ)さん
年齢 | 75歳 |
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所属 | 南九州市シルバー人材センター / ねぷた祭り実行委員会 / 南薩観光(株) |
勤務日数 | 8日/月(南九州市シルバー人材センター) |
※ご年齢は2020年8月時点のものです。
知覧でねぷた祭りが開催されるようになったのは25年前。その当時から現在まで、知覧ねぷたを支え、牽引し続けてきた人がいる。中木原重見さん(75歳)だ。中木原さんはねぷた祭実行委員。製作総指揮として全体を取り仕切っている。知覧でねぷたが始まった経緯からねぷたにかける思いまで、詳しく話をうかがった。
文化交流がきっかけで、青森から運ばれてきたねぷた
知覧ねぷた祭実行委員の中木原重見さんは75歳。シルバー人材センターや南薩観光(株)に勤務するかたわら、ライフワークとしてねぷたに関わり続けている。 ねぷたと言えば青森県が思い浮かぶが、なぜ知覧でもねぷた祭りが開催されるようになったのだろうか。中木原さんに尋ねると、きっかけは平成2年に始まった青少年交流だと教えてくれた。
普段は倉庫で管理されている
「今の青森県平川市から、青少年交流できる町を探していると鹿児島県に話が来て、知覧が候補に上がりました。北と南の文化の違いを学び、交流することを目的とした青少年交流事業が始まり、その一環としてある高校生が青森から知覧にやってきたのです。平成4年のことです」
4年後、成人した彼は「自分でねぷたを作れるようになった。あの時お世話になった知覧の人達にねぷたを見せてあげたい」その思い一心に、トラックに積んだねぷたを送り出し、彼も想い出の地知覧を目指した。そして1回目の知覧ねぷた祭りが開催される。最初は青森で作ったねぷたを知覧で2週間かけて組み立てたねぷた1台だけの祭り。次の年は、それを見ていた知覧の人々が「我々も作ってみよう」と2台目を制作。翌年、さらにねぷたが増え、祭りは次第に規模が大きくなっていった。
もともと市の職員だった中木原さんは、当時の上司から命じられてねぷた祭りを担当することに。それから25年。退職した現在もねぷた祭りに関わり続けている。
ねぷた?ねぶた?奥が深い知覧ねぷた
ところで、「ねぷた」か「ねぶた」か、どちらが正解なのだろうと疑問を抱いている人もいるのではないだろうか。
中木原さんによると、テレビで見る機会が多いのは「ねぶた」(nebuta)。人の形をしており、青森では人形ねぶたと呼ばれている。青森市を中心に開催されている祭りでは人形ねぶたが多い。一方、弘前市を中心とした地域では扇形の「ねぷた」(neputa)を使用する。このほか、4~5階建てのビルの高さがある巨大な「たちねぷた」というものもあるという。知覧では扇形のねぷただ。
絵の詳細を語る中木原さん
「ねぷたの表と裏に描かれている絵にも意味があります。表は鏡絵といい、中国の水滸伝や三国志、日本の武将が描かれます。一方裏は見送りといい、主に女性、お姫様が描かれます。鏡絵はこれから戦いに行く様子、それを見送るのが送り絵です」
知覧ねぷたの絵を描くのは青森の絵師だ。しかしどんな絵が描かれるかは事前には明かされず、届いて初めて知るという。
中木原さんがねぷたの活動をしていて一番うれしいのは、地元の若い人達から声をかけられること。
「ねぷたに参加する若い人もいますし、今は知覧を離れていても、祭りに合わせてわざわざ帰ってくる人もいます。『まだねぷたをやっているのですか』と声をかけてもらったときは、うれしいですね」と中木原さん。知覧で育ち、暮らしたことがある人なら、ねぷたに関わる何らかの記憶がある。成長して知覧を離れても、その記憶が人と町を繋ぐ。
子どもたちが祭りに参加した思い出を作れるようにと、2020年は小学校でもねぷた作りを行った。残念ながらコロナ禍で祭りは中止になってしまったが、ねぷたを作ったり笛や太鼓の練習をしたりという記憶は、彼らが大人になった後も知覧の風景と一緒に残るはずだ。
ねぷたを後の世代に引き継ぎ、地域を活性化させたい
時代が変わるに従い、町の様子も変化してきた。シャッターの下りる店が目立つ知覧の商店街を、寂しく感じている人も多いだろう。中木原さんは、ねぷたが知覧の地域活性化につながればと考えている。
「少しでも賑わいや華やかさが欲しい。年に1回でもいいから、ねぷた祭りを開催することが地域の活性化につながれば」
そんな中木原さんは75歳。引退を意識する年齢だ。できるだけ参加したいという思いを抱えつつ、若い世代にねぷたを伝えていく取り組みも行っている。
「5人もいれば、ねぷたに絵を貼る作業はできます。けれど応援要請ということで、10人くらいでやっています。というのも紙張りに参加すれば、普通は見えないねぷたの中が自分の目で見られる。外から見るだけでは、どういう構造になっているかが分かりませんから」
ちょっとでも何かが当たればねぷたは壊れてしまう。それを防ぐのが、内側と外側に貼られているテグスだ。そういう細かい仕組みや工夫も、ねぷた作りに参加することで初めてわかる。
最初は市役所職員として、そして今はシルバー人材センターや南薩観光(株)で働くかたわら、実行委員としてねぷたに関わる中木原さん。中木原さんにとって働くということは、皆と関わり、交流することでもある。知覧の活性化を願いながら、若い世代にねぷたを通したいろいろな体験の機会を作ろうと中木原さんは精力的に走り続ける。引退はもう少し先になるかもしれない。
ミュージアム知覧 (ねぷた常設展示場所)
※『ねぷた常設展示場所』がミュージアム知覧館内にございます。
〒897-0302 鹿児島県南九州市知覧町郡17880
TEL:0993-83-4433